会報『りかゆり vol.3』ご購入ありがとうございます!

 こちら、会報『りかゆり vol.3』を購入してくださった方々への特典になります。

 7月の対面交流会のときに行った"りかゆり風SS作りゲーム"(ショートストーリーを作るゲーム)でできた作品です。

​ それではまず、今回行った"りかゆり風SS作りゲーム"について簡単に説明します。

  ・5W1Hをまず決める

  ・今回の内容は社会人オンリー

  ・Like or Love

  ・制限時間:1時間半

  ・2チーム:Aチーム(ミキ, いしざき, ちょこれーと, リベ貧)

         Bチーム(かんかん, spica, 柚季, 天使)

 おそらくこれ以上の詳しい説明は不要でしょう。二つのチームに分かれてみんなで協力して百合小説を作る、それが"りかゆり風SS作りゲーム"です。

​ 今回の特典では、Aチームで出来上がった小説を載せさせていただきます。お読みいただき、理科大百合愛好会の活動に興味を持ってくださると嬉しいです。

​ 特典は9月13日まで閲覧できます。

ダルセーニョ

​ミキ, いしざき, ちょこれーと, リベ貧

“安達凛”

彼女はいつだって私の憧れだった。名前の通り凛とした目元も光りたなびく黒髪も周りを寄せ付けない不思議なオーラも誰よりもひたむきに努力していたことも、全部、全部、ずっと前から大好きだ。そんな安達凛が今私の隣にいる。神父の誓いの言葉はもうずっと入ってきていない。私の五感は彼女の輝いた目元と艶やかな唇を焼き付けるのに精一杯だ。誓いのキスの合図と共に白いベールが上げられ二つの唇が近づく。幸せそうな彼女の顔にあの時の言葉を思い出す。私たちを繋いだ言葉、私の押し殺した願いと気持ちが叶った言葉。私を彼女の隣にいさせてくれる言葉。「わたしたち結婚します。」

 

 

「新入生代表 安達凛」

呼ばれると同時に立ち上がる彼女の姿に私は見惚れていた。恋を電撃が走るようだと例える人がいるがもしかしたらその感覚に近いのかもしれない。彼女には申し訳ないけれどスピーチの内容は全くもって頭に入ってこなかった。私、今井舞と彼女の物語はこの瞬間から始まったのです。・・といっても一方的に認知し憧れているだけで頭脳明晰・容姿端麗・生徒会役員まで務めるようになった彼女のお近づきにはなれていない。学年トップの成績の天才と良くて80位の私とでは住む世界が違っているのだろうし、そもそも彼女が特定の誰かと仲良くしているところを見たことがないためひとりが好きなタイプなのだろうというのが私に認識である。クラスも違うしずっと見ていたわけじゃないから確信はないけど。ごく一般の女子高生と天才少女の学園生活は交差することはなく一年の時が過ぎていったのでした。

 

“出席番号1 安達凛 出席番号2 今井舞”

「クラス替えの神様は私を見捨てなかったらしい。」

なんてわざとらしい独り言を言ってしまうほど完璧なスタートで2年目の高校生活は幕を開けた。新しい教室のドアを開けると一番前の席の主は到着済みだった。

「初めまして安達さん。後ろの席の今井舞です。1年間よろしくね」

流石に唐突過ぎたかなと少し反省する。

「そう、よろしくお願いするわ。ただ、見て分かる通り今は忙しいから話しかけるタイミングを選んで欲しかったわね。」

含みのある笑みを浮かべる彼女の机には使い込まれた参考書が開かれていた。

「あ・・ごめんなさい」

そう言い終わる前にチャイムが鳴り響き初会話は散々な結果で終わってしまった。

翌日以降初日のやらかしを慰めるように他の女子生徒からよく話しかけられるようになったが、「安達さんプライド高くて高飛車なところあるからね」だとか「そうそう、自分が一番偉くて正解なんだって思ってそう」とか「去年から誰とも仲良くなれてかなったもんね」といった様な彼女を批判する言葉ばかりで私を慰めたいのか陰口を言いたいのかはっきりして欲しいものだ。そんな彼女たちの会話にイライラを募らせ、定期的に安達さんに話しかけるたび勉強中だと振られる生活を送りながら一学期が過ぎていったのだった。

 

夏休みが明け二学期が始まり私と安達さんの関係はどうなったかというと相変わらず話しかけては軽く流されるといったもののままだった。夏の間にさらに気合が入ったのか一学期に増して教室で勉強している姿を見かけることが多くなっている。

ただ、初日と違い皮肉めいた笑顔ではなくふざけるように笑いながら流されるようになったところは成長と言えなくもない。なんなら振っておいて会話に付き合ってくれたりもする。

そんな私たちは現在修学旅行を目前に控えている。目的地は沖縄で3泊4日。暑さは苦手なので残暑が遅めのお盆休みをとってくれることに期待したい。

班分けが出席番号順なのは正直ナンセンスだと思うが安達さんと無条件で同じ班になれるのだから私的に不満はなく部屋も同室、飛行機も隣席を確保できたのだからむしろこのシステムに感謝したい。天気予報も連日晴れ模様で絶好の沖縄観光日和が予想されていた。・・・

「のですけど、どうして飛行機の中でも勉強をしているのですかね。安達さん」

「別にどこで何をしようと私の勝手だと思うのだけれど」

「そうだけどせっかくの修学旅行なんだしさぁ。私も暇だし」

「本ぐらいなら貸してあげるから大人しく読んでいなさい」

といった感じで修学旅行でも私たちは良くも悪くもいつも通りであった。

やることもないので言われた通り借りた本をしばらく読んでみるが3時間もあるフライト時間では途中で飽きがくる。チラリと横を見ると熱心に文法書を捲る姿が映った。

「安達さんってさ、なんでそんなに頑張れるの?」

これは前からあった疑問だった。できないことをなくすために努力をする姿をこの半年間でたくさん見てきたが、その中でも勉強にかける熱意は異常と言っていいものだった。

「叶えたい目標があるだけよ」

帰ってきたのは思ったよりもありがちな答えであった。

「その目標って聞いてもいい?」

「あなたには関係がないでしょう?」

「関係なくても興味はあるから」

「・・・祖父の代から医師一家なのよ。それも全員小児科医。だから私もそれを目指しているだけ。目指さなければならないと言った方が的確かもしれないわね」

思えば彼女が自分語りをするのはこれが初めてかもしれない。そしてその解答は私と彼女を近づけるのには十分すぎるものだった。

「同じじゃん!もっと早く教えてくれればよかったのに」

「同じって?」

「目標のこと。私も小児科医目指してるんだ。医師一家とかではないけどね」

そう、彼女と私は同じ志を持ついわば同士だったのだ。驚きと嬉しさのあまり声量の加減がバカになっていたと。ただ、その喜びは共有できるものではない様だった。

「そうなのね。お互い頑張りましょう」

一瞬顔をひきつらせた後驚くほど冷めた声が帰ってくる。何か地雷を踏んでしまったのかもしれないなんて一抹の不安を抱えながら飛行機は着陸態勢に入っていった。

こんな形で始まった修学旅行だったがどうやら私の不安は的中した様で、クラス全体での活動時には自粛している様だが宿に戻るとすぐに机に向かう姿があった。そして飛行機での会話をひきずっているのか私を避けているようで1日目2日目とまともに会話をしてもらえなかった。

迎えた3日目の朝。今日は修学旅行唯一の完全な自由行動の日だ。少人数の行動になれば話すチャンスは増えると思っていたのだが

「安達さん。本当に行かないの?」

「何度も行かないと言っているでしょう。私はやらなきゃいけないことがあるから」

「でも修学旅行始まってからずっと意地張ってるように見えるよ。全然話してもくれないし。私何か気に触ること言っちゃった?」

「私の問題なのだから気にしないでもらえる?あなたが何を目指していようとあなたの勝手で私が何をしていても私の勝手でしょ」

「やっぱり飛行機の時のこと気にしてるじゃん。何が嫌なのか教えてくれないとわからないよ。せっかくの修学旅行なんだから部屋にこもって勉強なんて勿体無いよ。たまにはちゃんと休憩するのも大切だと思うよ?」

柄にもなく声を張り上げるとそこでようやく顔をこちらに向けてくれた。数日ぶりに目があった気がする。彼女は一つ大きなため息をついた。

「あなた、医師を目指しているのでしょ。それなのにそんな成績でよく遊んでいようと思えるわね。それに勉強している私に対して休憩を取れだなんて、まずはあなたが医師を目指せるだけの学力を身につけそれ相応の努力をしてからいうべきセリフではないかしら。そんな姿勢で同じ夢や目標を語らないでもらえる?」

「それは・・・そうなのかもしれないけど」

「そうなのでしょう。なら話はおしまい。余裕のあるあなたは好きなように遊んでくればいいじゃない。私はここから動く気はないわ」

この会話を最後に私は班のメンバーに連れられ部屋を後にした。

この日を境に彼女との会話はなくなり修学旅行は最悪の形で幕を閉じたのだった。

 

なんてことがあったらもう話しかけられないですよね。嫌われちゃいましたたね?そんなに悪いこと言いましたかね私。なんてくだらないことを考えながら日常の学校生活を送っている。変わった点といえば安達さんとの関わりがなくなったこと、そして放課後に自習をしていくようになったことだ。正直彼女から言われた言葉に腹は立っている。真っ向からの全否定だったし。

「それでも実際安達さんの言ってること間違いじゃないんですよね。医学部目指すのに学力足りてないのは事実だし。言い方はキツかったけど」

誰もいない放課後の廊下で独り言をしながら私は自習室に向かっていった。

「空調点検中ですか」

扉に貼られた貼り紙にそう書いてある。何やら作業服を着た業者さんが色々いじってくれているらしい。確かに先日からカタカタうるさいなとは思っていた。

仕方ないから場所を変えようと上履きを鳴らす。この時間だと空き教室は吹奏楽部が使っているだろうし残る選択肢は図書室ぐらいだった。校舎とは離れて別棟に存在する我が校の図書室は正確には図書館といったほうがいいらしい。

カウンターの司書さんに会釈をして空いていそうな角の席に向かう。

お目当ての席に近づくと5つ並んだ机の一番奥に見慣れた後ろ姿があった。

「安達さん?」

思わず声をかける。呼びかけに応じて彼女がこちらを向いた。暫くぶりに目があった気がする。

「あなた、こんなところになんの用事・・・って」

勉強道具を持った私を見て疑問は自己解決した様だった。

「もしかして、修学旅行であなたにいったことを気にして・・・」

申し訳なさそうな様子で彼女は目線を落としていた。

「まあ、あながち間違いではないかな。きっかけは安達さんに言われたからだと思う。」

「その・・あなたは不快に思わなかったの?あんなにひどくいってしまったのに」

「確かに腹は立ったよ。言い過ぎだろーとか何様だーとか思うことはあったけど、そういってくれたのが安達さんだったから納得できた。」

「納得?あなたへの否定を?正直言いすぎたところはあったと思うのだけれど・・・」

「そう。実はね一年生の頃から安達さんに憧れてたの。入学式のスピーチがすごくかっこよかったことすごく覚えてる。二年生になって同じクラスになって少しだけ仲良くなれて、同じ夢を持った仲間だって知って、何より安達さんがすっごく努力してるとこ近くで見てたから。」

そう言い切った時彼女は今までで一番驚いた顔をしていた。なんだか小っ恥ずかしいことをいった気がするがこの表情を見れたならお釣りが来るだろう。

「あなた、変わってるとかポジティブだとかよく言われない?」

「変わってるってことに関しては安達さんも大概だと思うけど。」

「それは・・そうかもしれないわね」

「というか、言いすぎたって自覚あるらしいのに私まだごめんなさいされてない気がするなぁ。それはどうなんだろうなぁ」

「訂正。あなた面倒くさいってよく言われない?」

私たちのふざけた会話は司書さんに怒れるまで続いていった。

 

 

安達家の娘として私は完璧でなくてはならない。そう心に決めて目標のためのこと以外は排除して生きてきた。何事も自分の世界で完結させて所謂馴れ合いというものを遠ざけて私の人生は形成されていた。

そんな私の人生に高校2年生にして二つの大きな変化が起こる。

一つは今目の前で三角関数と格闘している彼女との出会い。

“今井舞”

出会った日からなぜか私を気にかけてくれて、なぜか私から離れていかなかった人。私にとっては唯一友人と呼びたい人で、同じ夢をもつ同士で、現在は勉強仲間でもある。

「それでさ、文化祭誰かと一緒に回る予定とかある?」

「特にないわ。生徒会の仕事で多少忙しいとは思うけれど」

「じゃあ休憩時間一緒に回らない?」

「今井さんクラスと部活の仕事で忙しいのではないの?」

来週に控えた文化祭で私たちのクラスはドライフラワーの展示と販売をすることに決まっている。ひっそりと活動している園芸部に彼女は入部しているらしくクラスと部活の双方で最近はひっぱりだこになっている。

「そうかもだけど、ずっと忙しいわけじゃないから。空き時間で。いいでしょ?」

彼女によってもたらされた変化がいいものなのかはわからないがいいものだと思いたいのが私の本心。人当たりのいいこの子なら他に誘う人もいるのだろうにその中で私を選んでくれたことと忙しい中でも回りたいといってくれたことが素直に嬉しかった。

「わかったわ。当日手が空いたら必ず声をかけるわ。」

「ほんと?約束だよ?」

「そうね、約束しましょう」

こうして二人で話す時間は難しいことを考えずにいられた。鞄の奥底に潰して入れた二桁の学年順位が並ぶ模試結果もこの時間だけは忘れていることができた。

 

そんな会話から一週間が経ち高校2年の文化祭初日が幕を開けた。

結論から言えば初日に今井さんとの時間を取ることは不可能だった。というのもお互い生徒会と部活の仕事があったのに加え、予想以上にクラス展示が大盛況でありその状況の中誰かが放棄したシフトのカバーを私たちでするはめになったのだった。そのため自由時間は食事休憩を除けはほぼないに等しかった。その分売れ行きは好調なことと放棄したシフトのぶんを責任をとって変わってもらえることになり明日はある程度自由時間を作れることが予想できた。

 

迎えた文化祭二日目。客足も落ち着いた昼下がり、予想通り生徒会の仕事も落ち着きまとまった時間が取れた。約束通り彼女にLINEを送る。・・・・

返信がこない。既読もつかない。まだ仕事中だろうかと予想し教室に向かう。彼女の姿はない。電話をかける。応答はない。嫌な予感に襲われ急いで園芸部の部室に向かうとそこには人だかりができていた。

そこで初めて今井さんが突然倒れて保健室に連れていかれたことを知ったのだった。

 

 

 

午後6時半文化祭二日目が終了し後夜祭が行われているころ彼女は目を覚ました。

「今井さん。大丈夫?」

「安達さん?どうしてそんな泣きそうな顔をしてるの?というかそもそもなんで保健室なんかに・・・あ、そっか、私園芸部室で倒れて」

「過労だそうよ。働きすぎだって先生が。」

「・・・そっか。大丈夫だと思ったんだけどなぁ。やっぱりダメだったか。もう高校生にもなったし体力ついたと思ったんだけどなぁ。あ、そういえば、文化祭一緒に回る約束守れなくてごめんね」

「それは大丈夫だけれど・・・やっぱりってどういうこと?過労で倒れるってわかっていたの?」

「わかってたわけじゃないんだけどね。」

少し恥ずかしそうに語り始めた。

「私さ、昔からが弱くてずっと入院してたんだ。中二の頃から通院だけで良くなってきて今年からは定期検診だけになるまでよくなったの。まあ、今も激しい運動は控えるように言われているんだけどね。学校行事も参加できたことなかったから、嬉しくてちょっと無理しちゃったの。」

妙に彼女が文化に積極的だったことに納得がいった。

「実はお医者さんを目指したのもこれが理由なの。ずっと病院生活でつまらなかったけど病院の先生がずっと励まし続けてくれたから私もそんなふうに子供たちを助けられたらなって。」

彼女の話を締めくくるように外で花火が上がり始める。後夜祭ももう終わりが近づいているようだった。

「でもなぁ、やっぱり花火は見たかったなかなぁ。」

天井を見つめて少し悔しそうに彼女はこぼした。

「来年は一緒に見れるよね・・・」

「・・・約束するわ。必ず一緒に見ましょう。」

「絶対だよ?」

涙目でこちらを見つめる彼女がいる。

「ええ、必ず。」

言い切ると同時に彼女の体が私に近づき彼女の両腕が私の背中に回る。

花火の音が消えるまで私たちはずっと離れることはできなかった。

 

 

文化祭が明け今井さんの体調もすっかり良くなったようだった。その中で少し気になることがある。

「・・・なんだか最近近くない?」

「別に減るもんでもないしいいでしょ?嫌ならやめるけど」

「嫌ではないけれどこの距離感に人がいるのになれていなくて」

「じゃあそのうちなれるから大丈夫」

そんな戯言を言いながら今日も私たちは図書室で机に向かっている。

高校時代のビックイベントを終え、私の二学期は今までよりは騒がしく過ぎていった。

 

 

年が明け新学期が始まる。

初詣の誘いは家の用事があるからと断られたが家の事情では仕方が無い。

むしろ私が振られることから始まるなんてとても私達らしい新年の始まりかもしれない。

いつも通りくだらないことを考えながら教室に向かった。

「新学期早々頑張りますね」

「別に習慣づいているだけよ」

教室では相変わらず安達さんが問題集を開いていた。長期休みが明けるたび勉強量が増しているように見えるのじゃ気のせいだろうか。

「今井さん」

自分の席に戻ろうとすると珍しく安達さんの方から呼び止められた。

「今日の放課後は図書室にくるかしら?」

彼女から勉強会(私が勝手に隣に座りにいっているだけ)の参加の有無を聞かれたのは初めてだった。

「お昼ご飯持ってきたし行く予定だけど、それがどうかした?」

「いいえ、ただ確認したかっただけよ。」

何か隠しているように思えたが考えてもわからないし特に気にしないことにした。

 

迎えた放課後勉強会はいつも通り行われた。

今朝のあれはなんだったんだろうなと考えながら校門へ向かう。

「じゃあまた明日」

いつものように別れの挨拶をして帰路に着く。

「あの・・・渡したいものがあるのだけど」

そういうと彼女は小さめの紙袋を差し出してきた。

「確か、明日が誕生日だったでしょう?」

「そうだけど、覚えててくれたの?」

「一応、それぐらいの礼儀はわきまえるべきだと思っただけよ。当日だと放課後そのまま帰ることもあると思って、1日早いけれど今日方がいいかと」

譲歩の仕方がとても彼女らしくて微笑ましかった。

「これ、今開けてもいい?」

彼女は小さく頷く。プレゼントの中身はドライフラワーだった。

「文化祭の時は作ったり売ったりばかりだったでしょ。作ってる時から今井さん楽しそうだったから、飾るのも好きかと思って」

小ぶりのバラを中心にカスミソウとアジサイがガラスケースに飾られている。

「すごいかわいい。ありがとう。絶対大事にする。」

私の好みに合ったもので嬉しかったのもあるがそれ以上に彼女から贈り物をもらったというその事実が、その気持ちが嬉しかった。

公共の面前であることもお構いなしに彼女に抱きつく。

「ねぇ、ついでにひとつお願いしてもいい?」

「内容によるけれど何かしら」

「凛って呼んでいいかな?安達さんってちょっと硬いし。」

「別にそれぐらい構わないけど」

「ありがとう、凛。あ、私の呼び方まで無理して変えなくていいからね。なんとなく呼び捨てにすると苦手だと思うし。」

「それは、実際あっていると思うわ。」

「まぁいつか違うふうに呼びたくなったらいつでも断りなく変えていいから」

「善処するわ」

こうして私達の新しい一年は幕を開けた。と言ってもあと数ヶ月で3年生。

あっという間に三学期は過ぎていき、私たちは最高学年となるのだった。

 

 

 

そしてこの3ヶ月の間にも鞄の底の模試結果は増えていくのだった。

 

 

 

少しずつ鞄の底に溜まっていく。

確実に勉強量は増えているはず。知識だって計算力だってあがっているはず。

それなのに順位は少しずつ少しずつ下がっていった。

高校3年になって最初の模試が帰ってくる。

『5科目総合32位』

前回からまた4つほど順位を落とした。

「凛、見て!」

出席番号順で私のあとに返された彼女が嬉しそうに結果を開いている。

「初めて総合で30位以内に入れたの。凛と勉強してから毎回順位上がってるんだ。目標は夏までにトップ15って感じだね。」

 

 

 

彼女と私でどうしてこんなにも差が出ているのだろう。

勉強量もその質も劣っているとは思えない。

どうして。

どうして。

どうして。

 

 

「凛はどうだった?って聞くまでも無いよね。天下の安達様に勝てるよう私も努力を続けるとします」

 

 

彼女は一切悪くない。彼女はずっと私をトップだと信じてくれている。

悪いのは私。点数を取れない私。期待に応えられない私。

ただ、頭で理解していても心がついてきてくれない。

焦る。焦る。

時が流れる。

 

 

 

 

『5科目総合56位』

ついに私は、・・・壊れてしまった。

 

 

 

 

 

今年二度目の模試返却、結果を確認した凛の様子が明らかにおかしかった。

その場で固まり、席へ戻ろうともしない。

「凛?どうかした・・・」

私が声をかけようとすると、

「あなたには関係のないことでしょう。少しは黙っていられないの?あなたは自分の結果で満足していればいいじゃない。」

叫ぶ彼女の目は充血していた。

「凛?」

「いや・・ちがくて・・・・・・ごめんなさい」

そう言い残し彼女は鞄を持って教室から飛び出した。

あの日から凛は学校に来ていない。

連絡をしても返信どころか既読もつかない。

 

 

 

「凛も勉強で悩んでたんだ。」

担任から凛の成績を聞き初めてその事実を知った。

「どうして言ってくれなかったの」

「どうして気づいてあげられなかったの」

自問自答を繰り返す。取るべきだった行動を見つけるために考える。

 

 

「嫌がられたってもっと近くにいるべきだったんだ。私がいれば絶対安心できるぐらいに。私さえいれば他に何もいらないぐらいに。」

 

 

私の高校生活は本質的に終わりを迎えた。

文化祭の約束は今年も果たされることはなかった。

 

“安達凛”

わたしが看護師としてこの病院で勤めて3年目の春彼女はやってきた。新卒の看護師として配属された彼女の目が輝いているとことをわたしは見たことがない。

専門知識は豊富で手際も良い、ただ、どうも患者さんとのコミュニケーションが苦手なようなのと勤務態度が不真面目なわけではないが新人には珍しく熱量を全く感じられなかった。わたし、内田育美は彼女の教育係を請け負って半年を迎えている。正直彼女の様子にどうしたものかと頭を悩ませていた。

 

10月に入り秋も深まってくる。つい数ヶ月前まで昼勤務が終わった後は明るい中帰れていたが今はもう真っ暗だった。

一通りの業務が終わりロッカールームに入り帰宅準備を進める。少し残業をしていたせいかロッカールームに先客はいなかった。

安達さんは今日もどこか不満そうに仕事をしていた。きっとその辺りのケアも教育係の仕事なのだろうが彼女にかける言葉を見つけられていない。理由はきっとまだ彼女のことを何も知らないからだろう。

なんてことをつかれた頭で考えているとガチャリと音がして扉が開く。

安達さんだった。

「お疲れ様、安達さんも残業してたの?」

「いえ、看護部長から呼び出されて」

ここ最近彼女はよく呼び出しを食らっている。理由は彼女の仕事に向かう姿勢らしい。かくいう私も教育係として一度呼び出しをされお叱りをもらっている。

新人が呼び出しをもらうことは珍しいことではないがその多くは1、2回で済むか、早々にやめていくどちらかであり怒られつつも仕事が続いているのはすこい珍しい例だった。

それ以上会話が続かず沈黙が広がる。

無音の気まずさの中この静寂を破ったのは珍しく安達さんの方だった。

「内田先輩は、この仕事楽しいですか」

低いトーンで暗い質問が飛んでくる。

「そうだね、夜勤はきついし大変なことは多いけど昔からの目標だったからなんだかんだ楽しくはあるよ。」

「そう・・ですか」

「・・・安達さんはさ、この仕事楽しい?」

「楽しくは・・ないです。先輩とは違ってなりたくてなったわけではないですし。この仕事を選んだのもこれ以外に選択肢がなかっただけです。」

こんなにも話してくれる安達さんは珍しかった。

「安達さんの昔の話よかったら聞かせてもらってもいいかな?安達さんのこともっと知らなきゃなって、知りたいなってちょうど思っていたところだから」

「聞いて楽しい話じゃない・・ですよ」

そういうと彼女はぽつりぽつりと話し始めた。

医師一家の娘で小児科医を目指していたこと、昔から人との関わりが苦手だったこと、完璧であることに縛られ自分を締め付けていたこと、勉強は高校時代から伸び悩みそれがストレスになっていたこと、それによって学校にも通わなくなったこと、受験に失敗し家族からは勘当寸前の状態になったこと、担任の勧めで受験し合格した看護学校に通っていたこと、こんな人生を送ってきた自分が情けないこと、けれどこんな自分でもずっと近くにいてくれた人がいたこと、彼女に今も感謝していること、彼女を何度も傷つけてしまったこと、そんな自分が許せないこと・・・

「もうこんな自分が嫌なんですよ。」

彼女は涙ながらに語り最後にそう言い残した。

自分語りなんてものではなく大切な人と傷つけてしまったことへの懺悔そのものだった。後悔と罪悪感で今に押し潰れそうに書ける言葉を探す。

気持ちはわかると共感するのか?大丈夫だよと諭すのか?きっとそんなものは期待されていない。ただ一つ彼女が理解しているのに認識していないこと、それに気づかせてあげれば十分だと思った。

「辛い話を話してくれてありがとう。でも後もう一つ聴いてもいい?」

「何ですか・・・」

「それで、あなたが今したいことは何なの?」

「今したいこと?」

メイクの落ちた顔と目が合う。予想外の質問だと書いてあるような顔だった。

「そう。今したいこと。もう一度受験して医師になりたいの?病院って世界から抜け出したいの?それともその子ともう一度やり直したいの?きっと自分でもわかっているんじゃない?」

「それは・・」

「あなたが話してくれたことってわたしじゃなくって話したい人がいるんじゃない?」

「・・・そうですね。」

再びこの場に沈黙が訪れる。たださっきのような気まずさのある静寂ではない。わたしは黙って彼女の解答を待った。

「今井さんに・・謝りたいです。もう一度彼女に会って話をしたい。許してもらえるかわからないけれどもう嫌われてしまっているかもしれないけれど、もう一度でいいから彼女と向き合いたいです。」

彼女は力強く言い切った。胸のつっかえが取れたような気持ちのいい顔をしていた。

「初めて教育係らしいことができた気がする。」

「聴いていただきありがとうございました。」

「どういたしまして。お節介ついてにもう先輩から二つ提案をしてもいいかな?」

「なんですか?」

「今井さんと向き合いたいならその前に患者さんと向き合ってみようよ。患者ウケが悪い看護師やってるなんてカッコ悪いところ見られたくないでしょ?」

「それは、そうかもしれません。」

「患者さんだっていろんな悩みや問題を一人ひとり抱えてる。ずっと悩み続けた安達さんだからわかってあげられること、逆に教えてもらえることがたくさんあると思うの。」

「・・・ 善処します。」

「困ってる?」

「手伝っていただきたいとは思ってます。」

「随分素直に話してくれるようになってなんだか嬉しいよ。」

「それでもう一つというのは?」

「人との関わりの練習としてまずはわたしともっと仲良くなってくれると嬉しいなって」

「それは・・・具体的には何を?」

わかりやすく困った顔をしてくれるのがなんだか少し可愛く思えてきた。

「例えばだけど安直に呼び方とか。安達さんって呼ぶのちょっと硬い気もするし。こう呼ばれたいとかあったりする?」

「いえ、特には」

「じゃあ凛ちゃんでいいかな?」

「普通に呼び捨てでお願いします。」

食い気味にちゃん付けを断られる。流石にいい歳こいてそれは恥ずかしいようだったがいたずらでからかいたくなってしまう。

「私からはなんと呼べばいいですか?」

「別になんでもいいけど、できれば凛に決めて欲しいかな」

「じゃあ・・・はぐみ先輩で・・いいですか?」

呼び捨てにされるのも名前を呼ぶのも不慣れな様子が初々しくて可愛らしかった。

 

あれから凛の評価は鰻登りだった。もともと能力自体は高かったこともあり一年目ながら主戦力としてフル回転していた。また、今まで対応面からの不安で任されていなかった小児科の看護を自分からやりたいと申し出たらしい。凛の目は4月からは考えられないほどいきいきしていた。

「今日もお疲れ。」

「お疲れ様です。」

ロッカールームでお互いの帰りを待ち談笑するのがいつの間にか日課になっていた。社会勉強の一環という理由をつけて凛が言ったことのない場所、カラオケ、ゲームセンター、大衆居酒屋などに連れ出すようにもなった。恥ずかしいからやりたくないとプリクラは全力で拒んでいたがせっかくだからと撮るとそれをお守りのように財布に入れて眺めていたりするのだからやめられない。

凛と出会って何度目の春になるのだろうか。

新しい出会いの季節に期待に胸を膨らませる。

今年の春一番は例年に比べ強く吹いたらしかった。

今年の春は嵐が来るようなそんな予感を運んでくる強い風だった。

 

 

4月1日私はいつも通りロッカールームに向かう。今日から新卒や研修期間を終えた先生が配属されてくる。はぐみ先輩はもうきているだろうか。かつての先輩のように教育係に任命されるようになった私だがいまだにはぐみ先輩離れをできていない。まだもう少し先輩の優しさに甘えていたいからその日が来るのはもう少し先になりそうだ。

ロッカールームから話声が聞こえる。はとても聞き馴染みのある声だ。

ドアをノックしノブを回す。

「はぐみ先輩、おはようございます。」

目線の先にははぐみ先輩ともう一人。

何度も会いたいと思ったその姿。私の体は完全に膠着していた。

「凛、おはよ。ってなんでそんな固まっているの?今井さんもすごい顔して・・」

「凛なの?・・」

彼女の声を聞いた途端無意識に走り出していた。

ずっと会いたかった人に会えた。謝りたかった人に再開できた。それなのに、私は怖くて仕方がなかった。職員玄関から一度外に出る。胸の鼓動が治らないのは走ったことが原因でないのは明らかだった。

「凛、大丈夫?」

安心する声がする。きっと私を追いかけてきてくれたのだろう。

「すみません。ひとまず大丈夫です。」

そう言いながら息を整える。

「もしかして、あの子が前に言っていた今井さん?」

「・・・はい。今井さんに会いたくてもう一度話したくて頑張ろうって思えていたのに、いざ会ってみると嫌われているんじゃないかって。今話してもまた傷つけてしまうんじゃないかって怖くなってしまって」

先輩が私の手を掴み体を引き寄せる。その時初めて私の手が震えていたことに気がついた。

「不安だと思うけど大丈夫。わたしだって凛と面と向かって話せたから今こうやって一緒にいるんでしょ。凛の気持ちはきっとちゃんと届くから。」

「急に優しくしないでください。」

はぐみ先輩の優しさに少しだけ冷静になれた。

「今は先輩に任せておきなさい。わたしも凛の友達と話してみたかったから。」

そういうと先輩は私の震えが止まったことを確認して院内に戻っていった。

朝礼まではまだ少しだけ時間がある。私はやっぱり先輩の優しさに甘えてしまった。

呼吸は整ったはずなのになぜだか鼓動は先ほどよりも早くなっていた。

 

 

 

高校時代、彼女の目があんなに輝いていたことは1日もなかった。

「はぐみ先輩か・・・」

彼女が呼んでいた名前を一人取り残されたロッカールームでつぶやく。

あの日から凛のことはずっと気になっていた。担任の先生から看護学校に進んだと聞いた時は驚いたが、まさか同じ病院に配属になるとは思ってもみなかった。

彼女に聞きたいことがたくさんある。話したいことがたくさんある。きっとこれは神様が与えてくれたやり直しのチャンスなのだと思う。何から聞けばいいだろう。何から話せばいいだろう。でも最初に聞かなきゃいけないことは決まっている気がする。私は聞かなければいけない。

 

足音が聞こえる。

きっとあの人が戻ってきたのだろう。

「どうしてあなたは凛に名前で呼んでもらえているの?はぐみ先輩」

誰にも聞こえない声でそっと呟いた。

 

 

ロッカールームの扉を開く。

「よかった。まだいてくれた。」

「先輩がそのうち戻ってくる気がしたので」

学生時代にトラブルがあった人と久しぶりの再会をした割に彼女は冷静に見えた。

「少しあなたに伝えたいことがあるのだけど。いいかな?」

「もちろんいいですけど、時間は大丈夫ですか?」

「大丈夫。すぐ済むから。」

真っ直ぐ彼女をみて伝える。

「凛の話をよく聞いてあげて。あなたからも話したいことがたくさんあるのかもしれないし、もしかしたら話なんて聞きたくないって思っているかもしれないけど。あなたの話は凛からよく聞いていたから。」

「・・・大丈夫です。元々そのつもりですから」

「ありがとう。それが済んだら今度わたしともよろしくね」

・・・この口約束から三週間凛と今井さんの二人の時間は訪れることはなかった。

 

 

「やっぱり避けられてますよね」

再会から三週間が経ったが今井さんと話す機会は得られていない。

先輩は新しく入ってきたから今は忙しいだけだよと励ましてくれるが、目が合うと逃げられるのはやっぱり避けられているからだと思う。

こうなるとどうしても不安が募っていく。時間が経てば経つほど彼女と何を話せば良いのかわからなくなっていた。

今日は久しぶりの夜勤ではぐみ先輩と入れ替わる形での勤務だった。

深夜の病院は事務作業こそあれどナースコールがならない限り基本的に時間を持て余している。

 

デスクワークをしていると足音が聞こえてくる。こんな時間に珍しいなぐらいの感覚だったが、その来客は予想外だった。

「お疲れ様です。凛・・じゃなくて安達さんいらっしゃいますか?」

「今井さん?」

「ごめんね遅くに。いまちょっといい?」

彼女に連れ出されピロティへ向かう。

「ここ最近はごめんね。久々に会えたのにちょっと忙しくて時間取れなくて」

「いいえ、大丈夫よ。ええと、それで・・・」

「内田さんに凛が話をしたがってるって言われて、私も話したかったけどずっと時間が取れなかったから遅い時間だけど今しかないって思って」

唐突にやってきた機会に何を伝えるべきか思考を巡らせる。

何から伝えるべきだろうか、この数年間彼女にあって伝えたいことはずっと考えていた。でも今はそのどれを伝えても台詞じみた綺麗事に聞こえそうに思える。

目を瞑り深く深呼吸をする。

気配が近づく。温もりがやってくる。香りが鼻に触れる。驚いて目を開けるといつの日かの保健室のように私に抱きつく今井さんがいた。

「もう、会えないと思ってたから・・・。連絡しても返信してくれないし、急に学校来なくなっちゃうし、先生に聞いても医者になるのは諦めたらしいって言われるし、ずっと心配だった。どうして返信くれなかったの?どうして相談してくれなかったの?一人で抱え込まないでよ。今はもう大丈夫?仕事はキツくない?どうして内田さんといつも一緒にいるの?ちゃんと何かあったら教えてよ・・・。」

「ごめんなさい。私もずっとあなたに会いたかった。けれど、あなたを傷つけてしまったのではないか。嫌われてしまったのではないかってずっと怖かった。でも許されるならあなたともう一度やり直してみたかった。」

「凛を嫌いになったことなんて一度もないよ。私ね、凛にもらったドライフラワー今でも大切にしてる。ずっと大事していればいつかあなたに会える気がして。」

「私たちもう一度やり直せるかしら」

「もちろん。改めてよろしくお願いします。」

あの日の保健室とは逆で私が涙をいっぱいに蓄えていた。対照的に彼女は落ち着いたように見えた。

「次の金曜の仕事終わりって空いてる?」

「その日なら大丈夫よ。」

「今まで話してなかった分たくさん話したいことがあるから」

「そうね、私もたくさん。1日では足りないぐらいに。」

昔のように戯言を言い合えることがこんなに有意義だとは思わなかった。

「じゃあさ、約束しようよ。これからはずっと絶対に離れたりしないって。これからはずっと私が凛の一番で、凛が私の一番だって」

舞い上がって恥ずかしい言葉を並べるところが懐かしく思えて心地よかった。

「ええ、必ず」

あの日した約束と同じ言葉を私は返した。

 

 

待ちに待った金曜日を迎えた。凛の仕事が終わるのを待ち二人で横浜駅へ向かう。

ビルの5階にひっそりと入っている地鶏の専門店の予約を取っておいた。

お互いサワーで乾杯し、料理をいただく。彼女が学校を休んでいた間のこと、大学時代のこと、研修医時代のこと話したいことも聞きたいことも山積みだ。ただ、一番聞きたいことはそれらではない。

「それでさ、内田さんをはどうやって仲良くなったの?」

内田育美、私が知らない間に凛と親しくしていた人。私は今での『今井さん』なのに下の名前で呼ばれている人。彼女がどんな手段を使って凛の心に潜り込んだのか私は知りたかった。

「はぐみ先輩は私の教育係をしていただいて、新人の時に相談に乗ってくれたのよ。受験のことやあなたとのことをずっと引きずっていたからそのときは仕事もあまりうまくいっていなくて。それを救ってくれて今も私を助けてくれるとても恩のある人よ。」

「じゃあ、内田さんのこと好き?」

「そうね。感謝しているし一つも嫌う理由がないもの」

「じゃあ、キスしたいとか抱きつきたいとかそうゆうこと内田さんで考えたりする?」

「変な質問するわね。でもそうね、もしされたとしても嫌ではないと思うわ。他の人とすると考えると恥ずかしさや不快感があるかもしれないけれどはぐみ先輩なら大丈夫な気がするわ。」

「へぇ。本当に仲がいいんだね。ちなみに私としたらドキドキする?」

「そもそもあなたは学生時代いつもベタベタしてきたでしょう。流石にもう慣れているわ。でも、ドキドキと言っていいのかわからないけれど以前私を落ち着かせるために身を寄せてもらった時しばらく鼓動が早かった気がするわね。」

「・・・そうなんだ」

どうやら私がいない数年間の壁は想像以上に大きいようだった。

一番だって約束したのに・・・

でもそれは最終的に叶えばいいかと切り替える。

夜も深まりアルコールもまわり店を後にする。

私が振った話ではあったが先輩との思い出話をずっと聞かされた。

横浜駅へ帰る途中大きなゲームセンターがあった。

「ここで以前先輩とプリクラを撮ったのよ。最初は恥ずかしかったのだけど撮ってみると案外を悪いものでもないわよね。」

この街には凛とあの女の思い出が充満しているように思えた。

「せっかくだしさ、私たちも撮っていかない?」

あの人との思い出は私が上書きしたい。塗りつぶして見えなくしたい。プリクラに誘ったはそんな理由だけだった。

地下一階のフロアに向かい筐体を見る。遅い時間にもかかわらず女子高生や女子大生と思われる人たちで賑わっていた。

「空いていそうな奥のところでいい?」

彼女の手を取り人をかき分け奥へ進む。ちょうどよさそうな筐体を見つけた。左右で一組ずつ入れるタイプのもので型落ちしているのか左右両方のスペースが空いている。

適当に設定を進めると電子的な音声でポーズの指示がされる。言われるがまま従いながら四枚の写真を撮った。あとは一枚。

「最後はフリーポーズだよ。思いのままにポーズを取ってね」

不安な顔で凛がこちらを見てくる。きっとポーズをどうするか決めかねているのだろう。

「3、2、1、」

シャッター音と同時に凛に顔を近づけ、右頬にキスをした。

驚いた彼女と表情を見るのは久々な気がした。

「別になんとなくしてみただけだよ。落書きの方いくよ?」

筐体を出て落書きをするブースに入る。どうやら私たちが撮っている間に隣のブースにも誰かが入ったようで話し声が聞こえた。男女のペアのようだが特に私たちには関係のないことだ。

「私そういうの得意ではないから任せていいかしら?」

そう一言断って凛はお手洗いに向かったようだった。

私も芸術系はあまり得意ではなく、下手に汚すくらいならと手短に終わらせる。残った時間で最後の写真が写った液晶を一人で眺めていた。

筐体を出て出来上がりと凛の帰りを待つ。

どうやらお手洗いは混んでいるようで、出来上がりの方がずっと早い。

携帯を見ながら凛の帰りを待つ。

隣から人が出てくる。

ふと目線をそちらに向ける。

「・・・今井先生?」

「・・・内田さん?」

二つの声が重なる。

「どうしてこんなところに?」

そう尋ねようとした時、彼女たちのプリクラが完成した。

取りだされた写真には仲睦まじい二人が写されており、その五枚目にはピンクの文字でこう書かれていた。

 

「わたしたち結婚します。」

 

 

 

“安達凛”

彼女はいつだって私の憧れだった。名前の通り凛とした目元も光りたなびく黒髪も周りを寄せ付けない不思議なオーラも誰よりもひたむきに努力していたことも、全部、全部、ずっと前から大好きだ。そんな安達凛が今私の隣にいる。神父の誓いの言葉はもうずっと入ってきていない。私の五感は彼女の輝いた目元と艶やかな唇を焼き付けるのに精一杯だ。誓いのキスの合図と共に白いベールが上げられ二つの唇が近づく。幸せそうな彼女の顔にあの時の言葉を思い出す。私たちを繋いだ言葉、私の願いと気持ちを叶えた言葉、私を彼女の隣にいさせてくれる言葉。「わたしたち結婚します。」